“ゴールデンタイム・ジャーナリズム”を標榜して、TBS系全国ネットで毎週水曜日夜9時から放送していた、報道・情報番組「スペースJ」(1993.10~96.9)。90分の平均値で32%(瞬間では45%)という記録的な高視聴率をマークする回があったり、非難を受け猛省したり表彰されたり…と非常に起伏の激しい尖った番組だったが、そこにレギュラーで共演していた越前屋俵太氏(本名=谷雅德・関西大学前客員教授)と下村が、今日、関西大学(高槻キャンパス)の大ホールで3時間ブチ抜きの対談型特別授業を行った。
よく「インターネットの台頭に押されて衰退していくテレビ」とか言われるけれど、媒体が何であろうと、人は内容が面白ければ見るし、つまらなければ見ない。これは、今後どんなツールが発明されようと変わらない。そんな確信を共有して、“funny”な(=面白い)レポートを磨いてきた俵太氏と、“interesting”な(=面白い)リポートを追い求めて来た下村が、上記のタイトルで学生たちの質問に答えまくった。
お手本は、パリの首相官邸で追い返されたアリ
俵太氏は、フランスのクレッソン首相(91年当時)が「日本人はアリのようだ」と発言して問題になった時に、ユニークな現地リポート(これは他番組だが)をオンエアして両国で話題になった。全身クロアリの格好の着ぐるみで、俵太氏がパリの首相官邸を訪れる。ステレオタイプな日本式に、ペコペコお辞儀をしながら首相へのインタビューを申し込むが、珍問答の末に守衛に追い返され、最後は真顔でリポートしながらセーヌ川に転落する。そんなナンセンスなパフォーマンスで、この首相発言の《まともに対応するに値しないアホらしさ》を表現してみせた。
俵太氏は、このリポートを引用しつつ、《光線がプリズムを通過する時に屈折すること》を例に挙げ、「真っ直ぐメッセージを発して曲がって伝わるぐらいなら、最初から角度を付けて発信し、メディアというプリズムを通過して視聴者に届く時には真っ直ぐな角度になっていることを目指した方が良い」と言う。わかったようなわからんような、しかしどこか共感できる考え方だ。
「東大卒で報道エリートの下村さんは、あの頃、こういう僕のリポートを内心でバカにしてたでしょ。」
と壇上で俵太氏にニヤニヤと絡まれ、私は心から即答した。
「とんでもない! こういう表現スタイルは、本当に尊敬してたよ。僕は元々、TBS入社3年目の人事面談の時に、『今まで報道局で取材のノウハウを学んだので、今度は情報番組部門で、表現のノウハウを学びたい』と希望を出したくらいだから。“これは大事な話だから、つまんなくてもちゃんと正座して聴け”なんていう態度は、情報の受け手には通用しないから。」
情報発信をつまらなくしているのは誰か
報道の分野で《面白さの追求》などと言うと、ふざけるな、不真面目だと批判されかねない。だが、interest(関心)を喚起しようと努力することは、発信者としては当然の務めだ。と言っても、伝えるべきニュース項目を押しのけて、「人気のラーメン店」をリポートすることが、面白さの追求ではない。そうではなくて、皆が耳を傾けるべき重要なニュースをこそ、腕によりをかけてinterestingに伝えるべきなのだ。
残念ながら最近のテレビの報道・情報番組は、「インターネットの台頭に押されて」ではなく、ただテレビだけを過去と今とで見比べてみても、明らかにつまらなくなってきている。
実際に、俵太氏も私もそれぞれの《面白い》リポートの実例を紹介しながらトークしていったので、聴講した学生の感想の中には、こんな声もあった。
「撮影・編集技術が進歩した今のテレビの方が、昔より絶対に面白いはずだと思っていたけれど、『つまらなくなった』という意味がようやく分かった。」
彼も私も、今はごく稀にしかテレビ画面に登場しない。こういう“過去の人”が「近頃のテレビは…」とご隠居さんの様に嘆いてみせる構図は全く生産性がないから、《これからどうして行くべきか》を皆で考えていかなければいけない。だから、
「なぜタブーに切り込んでいく様な、面白い情報番組が減ってしまったのか」
という学生の質問に、私はあえてこんな風に答えた。
「上からの規制よりも、今よっぽど効いているのは、横からの規制だ。SNSなどで他人の発言をやたらと『けしからん』と匿名で叩いたり、それにビビッて沈黙を選んでしまったりすることが、君たち自身の中にもないか。こういう時に教室で、本当は質問や意見を言いたいのに、手を挙げられない心理は何なのか。そこを深く考えてみろ、ということが、君の質問への本質的な答えだと思う。」
[ 了 ]