故郷の福島県富岡町から去ることを強いられた子どもたちが、そこに長年暮らしてきた年長者との交流を通して何を感じるのか。東日本大震災から7年を迎えた今、それぞれの気付きが語られました。
2014年に始めて以降、3回目となった「おせっぺとみおか」の発表会。
現在、山梨、岩手、東京とそれぞれの場所で暮らす19〜20歳の3人の「聞き手」が、50ほども歳の離れた年長者3人の「話し手」から故郷の話を聞き、書き起こし、文章にまとめる「聞き書き」事業の集大成です。下村さんは、去年の8月と12月に行われた研修会で、書き起こしたインタビューをまとめるコツや、自分たちの未来を想像する「未来同窓会」の指導などをサポートしてきました。
3人の聞き手が起こしたインタビューの合計文字数は、なんと23万5000文字!
学業の合間に膨大な量の作業を進めてきた3人の成果発表は、その姿を見つめてきた下村さんを始め多くの関係者が見守るなか行われました。
作品集も、今年で3冊目!
ここに納められた3つの聞き書きをご紹介しします。
「出会いは一瞬にして一生」
話し手:渡辺光夫さん(70歳)
聞き手:市村凌雅くん(20歳)
トップバッターは、今回で2回目の参加となる市村くん。いわき市で次世代の人づくりをする「学びの学園」を手がける渡辺さんからお話を聞きました。
渡辺さんは、富岡駅前にある米屋の八番目の子どもとして生まれ育ち、兄妹の助けのもと高校で上京。大学を卒業後ほどなくして富岡に戻り事業を始め、周りの人たちを巻き込みながら地域イベントなどを開いていました。そんな渡辺さんが何よりも大切にしているのが、「繋がり」だといいます。そんな渡辺さんとの出会いについて、市村くんは、「こういうふうに生きてみたいという目標ができた」と語りました。
「出会いは一瞬にして一生」という題名に、気付きの大きさが眩しいほどに表れています。
「『さくら』と共に生きていいく」
話し手:小野耕一さん(71歳)
聞き手:渡邉純哉くん(20歳)
震災当時まで桜の木が見える場所で暮らしていた小野さんは、小さい頃は桜のトンネルに登り、道路の逆側の木に移り渡るなどするという驚きの遊びをしていたといいます。今では避難者向けに開かれたワークショップをきっかけに始めた染め物で故郷の桜の風景を表現し、富岡をPRしたいという思いから、日々高いスキルが求められる桜の草木染めに挑んでいます。
まだ避難指示が解除されていない町に住んでいた渡邉くん
は、「当時のことをだんだん忘れる中で、何十年前からの話を聞けて嬉しい」とした上で、故郷とは何かをこう定義しました。
「大人になった自分が、そこに足を踏み入れて、思い出を懐かしむことができる場所。」
足を踏み入れることができない状況に置かれている故郷は、「まだ僕にとって頭の中の場所。まだ帰ることができていないので、故郷と思うにはまだ時間がかかる」と言います。こうした現実の厳しさとも向き合いながらも、自分たち若い世代が責任をとって活動をしていかなければならない、という力強い言葉で発表を締めくくりました。
「守らねっかなんね」
話し手:松本政喜さん(71歳)
聞き手:荒木明彦くん(19歳)
初参加の荒木くんは、松本さんのお話を聞くことを熱望していました。
実は、避難先の仮設住宅で自治会を立ち上げ、運営をしていた松本さんを、密かにずっと尊敬していたそうです。念願叶ってのインタビューは、雨降る中、松本さんの思い出の場所を一緒に回りながら行われました。松本さんが地域や周りの人々を守り、また、守られていることを振り返る言葉たちがとても印象的です。
一方で、驚きのエピソードが沢山ありすぎて、どの要素を削るのかとても悩んだそうです。
この台詞もその一つです。
「自分は年寄りだから自分が考えても、廃棄物。若い人たちに考えてほしい」
この言葉を受けた荒木くんは、人と町の経験と歴史、雰囲気を先輩から知って、今と次のことを考えなければいけない、復興のことを同世代に伝えていきたい、と語ってくれました。
「守らねっかなんね」という魂の継承を深く感じる発表でした。
さて、発表が終わり、ここからは下村さんがモデレーターとして登場。
「参加者に聞く、聞き書きのこと、町のこと」のディスカッションが始まります!
この日、福島県内から参加してくださった話し手のお二人と学生サポーターで春から福島の新聞社で働き始める緑川沙智さんを迎えてのトークです。
左から:下村さん、緑川さん、話し手の渡辺さん、小野さん
作品集に書かれていた、松本さんが高さ15メートルもある場所から海に飛び込み“あんにゃ(年上で信頼あるという意味)”と呼ばれるようになったエピソードや、小野さんが桜並木の上を渡っていたことなどを詳しく聞くと、会場は大盛り上がり!今では考えることのできないスケールが大きい遊び方に驚きの声や笑い声、中には「懐かしいな~」という声も聞かれました。
懐かしい遊び話に熱が入る!
こうした話題の中で下村さんが触れたことは、自然の中の遊びは自然の知恵を得ることであり、生きる知恵になるということ。そして、原発と対極の姿が地域にあったことを知ることの意味と、そのことを聞き書きで伝えて行くことの大切さです。失ったものはテレビや新聞では報じられないため、地域の姿を地層のように少しずつ確実に重ねて次世代に伝えていくことは、共に未来を考えることに繋がります。おせっぺの活動の意味は、そこにあるのです。
「ただのノスタルジーじゃない、沢山の笑い声の中に<未来>が感じられる、いい会でした」
(下村さんTwitterより)
最後になりましたが、今回の発表会は過去の聞き手や賛同者からなる「学生サポーター」の5人によって運営されました。学業などと並行して「おせっぺとみおか」に関わり、その真意と可能性を肌で感じているメンバーだからこその一体感溢れる発表会となりました。本当に、お疲れさまでした!